『スターシップ・トルーパーズ』とはどんな話か?
前回末尾に記した私の一文で、こう白けられた読者諸兄も大勢おられよう。しかし一方では「なるほどそう来たか」とニヤリとされるSFファンの方も、きっと居たに違いないと私は信じている。
そう。何もアイザック・アシモフやアーサー・C・クラークの名前を出すまでもない。
欧米、特にアメリカSFの最高レベルの作品群ともなれば、それはもはや日本のお子チャマなSFモドキ作品などとは比べようもない。むしろ最新の科学知識に基づいて、あまりにも厳密且つ正確な考証を心がけようとするあまり、ほとんど文明論や人類論の域にまで到達し得た作品が数多くあるのである。
ゆえにそれは、決して「フィクション」の一言で切って捨てられるような薄っぺらいジャンルではない。むしろアルビン・トフラーあたりの未来学者が、参考文献として重宝していたとしても少しも不思議ではないくらいの、極めて重厚な分野に現代ではなりおおせているのである。
というわけで『スターシップ・トルーパーズ(宇宙の戦士)』だが。時は七十世紀の未来、異星人(というより宇宙怪物グモ)との果てしない恒星間戦争が続く時代に、ハイスクールを卒業したばかりの少年志願兵、ジョニーが配属されたのは、泣く子も黙る鬼のパワードスーツ(ご存知、『機動戦士ガンダム』はモビルスーツのネタ元だ!)装着チーム、機動歩兵部隊だった。地獄の猛訓練が続く中、いつしかジョニーは鋼鉄のごとき勇敢な戦士に……ってそんな筋書きなどどうでもいい! ここで重要なのは、この物語に描かれる時代の社会背景なのだから。
元々ハインラインは、SFとしては初めて未来史を体系づけて作り、その年代表に合わせて作品を書いていった作家である。ゆえにこの作品も、単品で完結しているようなものでなく、背景に膨大な前史と後史を抱えているのであるが、それによると、この時代を生み出した経過はこうなっている
――二十世紀末、社会秩序を根本的なところで支えていた公徳心が人々の中から消え去った時、各国政府は、その体制を支えきれなくなって次々と自滅崩壊を起こしていった。そうして生じた無秩序な混沌状態のなかで、最終的に権力の空白状態を埋めていったのは、多くの場合、復員軍人だった。彼らの何人かが暴動と略奪を防ぐために自警団を結成し、何人かの無法者を公開処刑にし、そして彼らの委員会には、復員軍人以外誰も入れないようにした。彼らは誰も信用しなかったが、同じ復員軍人同士だけは少し信用した。それは非常手段として出発したことだったが、一・二世代経つうちに憲法上の制度になってしまった――すなわち「最低二年以上兵役に服し、且つ退役した者だけが参政権を得ることが出来る『志願兵制制限選挙』制度=ハインライン・デモクラシー」である。
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